【蝉の抜殻C】
「まいき!みて!みてみて!あそこ!」
泣きやんだあたしに言った。
「あそこだって!」
弘樹が指差すほうには、大きな木があった。
『え?きがどーしたの?』
「どこみてんだよ!」
あたしのうでをひっぱり、
木の前まで走っていった。
「ほら!」
葉っぱの裏に蝉の抜殻が、くっついていた。
「わぁ!!せみのぬけがらだ!!」
まだ、しょんぼりしていたあたしを、
心配かけてしまった弘樹を、
すぐに笑顔に変えてくれた。
あの頃は何を見るにも、
今とは違って見えていたんだね?
『あっちにもあるよ!ほら!!』
「こっちも!みて!そこにも!!」
夢中になって蝉の抜殻を拾っていった。
虫かごがいっぱいになるまで。
動きもしない、ただの抜け殻なのに。
『ねぇ?ひろき?せみのいのちはみじかいけど、ちゃんとじぶんをのこしてるんだね?』
「そーだね?わすれてほしくないからかな?」
『きっと、そーだよ!わすれられたら、さびしいから。』
「ねぇねぇ!みてみて!」
振り返ると弘樹の服には、
たくさんの蝉の抜殻ついていた。
『うわぁー!せみにんげんだぁ!』
「いいだろー!!」
『いいなぁ〜!じゃぁあたしも!!』
あたしも服に蝉の抜殻をつけ、
蝉人間になって、公園中を弘樹と走り回っていた。
「虫かごいっぱいになったね?」
『うん!これいじょうはいんないよ!!』
そんなこと喋っていたら、
1人の少年に声をかけられた。
「それかっこいいね!!」
彼は、あたしの虫かごを指差して言った。
朝来た時は、誰もいなかったのに、
蝉の抜殻を集めるのに夢中になりすぎて、
人が増えていることに気がつかなかった。
彼は目を見開いて、
物欲しげに、指を手にくわえて見ていた。
『いいでしょ!』
「せみのぬけがらなんだ!!」
「いいなぁ〜!!」
「いいなぁ〜!!」
彼はその言葉ばっかし何度も言っていた。
『一緒にさがす?』
「うん!」
今まで、ずっと虫かごを見つめていた彼が、
初めてあたしたちに目を向けた。
この日があたしと弘樹が初めて、大和に会った日だった。
【蝉の抜殻】
〜END〜
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